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2015年7月15日 (水)

『レトロゲーム』の定義と誤用

世の中で『レトロゲーム』と呼ばれているものは、実際には「レトロなゲーム」ではありません。
…と言ってもピンと来ないと思うので、ちゃんと説明しますが。

レトロ(retro)には『復古』『懐古(回顧)』『逆行』などの意味があります。

『復古』は簡単に言えば、古い様式を現代の技術で蘇らせること。旧時代を再現すること。
この意味で言えば、古くなったものをレトロとは呼ばないのです。

ファミコンであろうとPS3であろうと現物で遊んでる限りは『復古』ではなく、ただ古いだけです。
つまり「発売から○○年経ってるから」などの理由で『レトロゲーム』に変化したりはしないということ。
まずはこの認識を、誤った定義を捨てていただくところから始めなければなりません。


では、古いものはなんと呼ぶべきなのか。まんまオールド(old)と呼んでもいいと思います。
クラシック(Classic)という表現もありますね。骨董的価値のある旧車を「クラシックカー」と呼びますし。
他にもアンティーク(antique)やヴィンテージ(vintage)など、ジャンルによってさまざまな表現があります。

「旧車の雰囲気や意匠を取り入れた新型車」は『復古』なので、クラシックではなくレトロが正解。
「クラシックカー」と「クラシックな雰囲気の新型車」の違いは例としてわかりやすいと思います。
最新の表現が可能な環境で、あえて旧世代的な表現を用いる。わざと古めかしく見せて懐かしく感じさせる。
懐かしさはあるけど実際は古くないってところが『復古』の特徴です。


続いて『懐古』の説明を。一般的にレトロは『復古』よりも『懐古』の意味で使われることが多いのでは。
懐かしさを楽しむ、いわゆる懐古趣味。ただし、懐かしく思う時代は人それぞれ異なるものです。

2000年以降に生まれた人が懐かしく感じるゲームは、ファミコン世代にとっては「最近のゲーム」です。
逆にファミコン世代が懐かしく感じるゲームは、2000年以降に生まれた人たちからすると名前を聞いたことも
ないような未知の存在であり、懐かしさよりもむしろ新しさを感じるはずです。

なので、懐かしさで『レトロゲーム』の範囲を定義するのは無理があるんですよ。


ただ、「懐かしさ」という感覚がひとつのカギになると自分は思っています。
自分の心のなかに湧いてくる「懐かしさ」を楽しむ、その体験こそが『レトロゲーム』なのではないかと。
古いソフトやハードを『レトロゲーム』と呼ぶ違和感を解決する糸口になりそうな気がします。

しかし『レトロゲーム』の誤用が世界的に定着してしまっている現状、いまさらこのような指摘をしてみても
誰も受け入れてくれないどころか、むしろ変な目で見られるでしょうね。
定義があやふやなまま使われるうちに、原義とは異なる意味で定着してしまった言葉はたくさんあります。
数十万人が間違った使い方をしている言葉を、自分ひとりの力でどうにかするのは不可能でしょう。


ゲーム機の歴史は長いとは言えず、世界初の家庭用ゲーム機が生まれてからまだ50年ほどしか経っていません。
50年の歴史として振り返ったとき客観的に古い時代はどこなのか。
そう考えるとやはり1990年以前。8bit以前を『レトロゲーム』と呼ぶのなら納得できる気はします。

現行の家庭用ゲーム機やPCゲームのインディーズにおいて、『懐古』を匂わす表現として用いられているのは
ほとんどが8bit風、あるいは16bit風であり、初代Playstation風のローポリ表現などはあまり見かけません。
このことから懐かしさの最大公約数、『レトロゲーム』の共通認識がドット絵なのは間違いありません。
それらは『懐古』であると同時に『復古』でもあるので、二重の意味で『レトロゲーム』と呼ぶことができます。



「PS3もとうとうレトロゲームになっちゃったよね~」などとバカげたことを言う連中を定期的に見かけるので
どこかでツッコんでおかねばならないと思い、ひとつの記事にしました。


レトロには『後方』という意味もあり、『後方』から連想するゲーム用語といえば後方互換があります。
これはレトロかどうか判別が難しいところで…最新の技術で動かしてはいるものの、ソフトは現物のままなので
画面で起きている現象はレトロと言えるけど、うーん?みたいな、ふわふわした捉え方になります。

互換技術は間違いなく新しいのに、最新の技術とは差を感じてしまう。体験してみると不思議なものです。



別件ではあるのですが、『時代劇』という言葉の定義においても近い論争を見たので追加で書いておきます。

『時代劇』と聞いてイメージする年代ってだいたいは江戸時代のころですよね。
広義では平安時代から江戸時代、明治維新までの範囲に設定された作品のことを一般的に『時代劇』と呼びます。
「刀を差してチャンバラする」というイメージだと、明治や大正も含まれる可能性があります。
たとえば「るろうに剣心」とか「鬼滅の刃」とか。あのへんは『時代劇』に入れてもいい気がしますよね。

『時代劇』が指す年代やイメージ、歴史上の範囲ってようするに固定されてるんですよ。
平成になっても令和になってもその範囲が変わることはない。この先どんなに未来になっても範囲は一定のまま。
「令和になったから昭和はもう『時代劇』だよね~」にはならないんです。

でも、『時代劇』という言葉を「古い時代を描いたドラマ」と認識、あるいは定義したい人もいるみたいで。
本当に笑っちゃうような話なんですが、「平成初期はもう『時代劇』でいい」とかマジメな顔で言ってるんです。


この話を受けて、『レトロゲーム』も「指し示す年代が固定されてる言葉なのかもしれない」と思い始めました。
平成になっても令和になってもその範囲は変わることはなく、新しいハードが誕生しても一定のまま。
他にもこういう言葉ってありそうだなぁ。たとえば『演歌』や『歌謡曲』の定義とか。

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