ゲームレビュー 「Disco Elysium - The Final Cut」
[プラットフォームと購入方法]
PC版をSteamのセール期間中に1,025円で購入。
[クリアまでにかかった時間]
1周目のエンディングに到達するまでに約54時間。
プレイ期間は約4か月におよぶ。個人的な事情で途中1か月の休止を挿んだため、正確には約3か月間となる。
[ゲーム難易度]
本作はRPG要素が強いとはいえ、基本は推理アドベンチャーなので難しい操作は要求されない。
しかしゲームシステムの面でやや説明不足なところがあり、理解の度合いで体感難易度が違ってくる。
ゲーム開始時のスキルポイントの割り振り次第で攻略が有利にも不利にもなるが、初回は気にしなくてもよい。
もし2周目に挑戦する気が起きたなら、ポイントの割り振りから考えてみてもいいだろう。
[実績・トロフィー難易度]
全45種類。そのうち1周目のプレイで解除できたのは8つに留まった。
特定の選択肢を選んだ回数、特定の分岐など、解除条件がわかっていても達成が難しいものが多い。
攻略情報を見ながらひとつずつ埋めていったとしてもかなりの時間と手間がかかるだろう。
本作の場合、そういう遊び方が楽しいかどうか微妙なところもある。セーブデータをいくつも残せるのが救いか。
[良いところ]
・狂気とも言うべき膨大な文量を日本語ローカライズしてくれたことをまず最大限に評価したい。
・要求スペックを低めに抑える努力をしており、安価なノートPCでもかろうじてプレイすることができる。
・架空の社会の構築。国家や人種、身の回りの雑貨、書籍に登場するヒーローなど、細部まで作り込まれた設定。
・登場人物たちの生命感。怒り、憎しみ、嘲り、それに喪失を痛感する文章の描写力。
・決して広くはないマップのなかで、信じられないようなところで接続する出来事の相関。
[どちらとも言えない]
・本作はゲームというより読書と思ったほうがいい。最初から最後までとにかく『読むゲーム』である。
・活字を思わせる雰囲気のあるフォントは環境によっては読みづらいかもしれない。
・30分ごとのオートセーブは親切ではあるのだが、ないほうがスムーズにプレイできる気がする。
・やや味気ないエピローグ。プレイヤーにもう少し何かご褒美があってもよかったのでは?と思ってしまう。
[悪いところ]
・キャラクターシートのスキルポイントの割り振りや『思考キャビネット』のシステムは純粋にわかりづらい。
・ファストトラベルはあるがどこでも使えるわけではなく、制限があることの説明がない。
・予期せぬタイミングで発生する気力へのダメージ。操作が間に合わなければ無慈悲にもゲームオーバー。
(反射神経を問われる要素なのに、なぜか体力と気力の回復はキーボードのショートカットが存在しない)
・行動の判定を成功させようと思うと途端にゲーム的に、システムを利用した攻略になってしまうところ。
判定の直前にセーブして、失敗したらロードし直す。保険の意味でもそうせざるをえないところがある。
たとえば証拠がすべて揃っていて97%の確率で成功する尋問でも、3%の確率で失敗する可能性を否定できない。
普通に推理アドベンチャーとして考えるとありえない話で、プレイヤーに余計な手間を強いる。
逆に、成功率が低い判定をロードの繰り返しで無理矢理突破することもできてしまう。
スキルポイントを割り振ることで再挑戦可能になる判定『ホワイトスキルチェック』は、判定に使用するスキル
ポイントの割り振りが上限に達している場合、追加の割り振りができず再挑戦も不可能となる。
こうなると『思考キャビネット』で該当するスキルの上限を伸ばすしかないのだが、どの思考で上限が伸びるか
ゲーム内の思考一覧では確認が難しく、必要な思考を獲得できているとも限らないのが非常に恐ろしい。
実際、1周目のとある判定で『痛覚閾値』が高めの状態で失敗し、詰みかける場面があった。
余談だが、発売以降に展開された開発スタジオ内の訴訟問題が本作の印象を貶める結果となったのは残念である。
[総括]
2019年にZA/UMがリリースした「Disco Elysium」はその時点でも国内の一部のゲーマーの話題になっていたが
大きく取り上げられるようになったのは日本語ローカライズの決定以降ではないだろうか。
そもそもローカライズできるのか。ローカライズの実現自体が大きなニュースになるタイプの作品であった。
本作がD&DシリーズのようなテーブルトークRPGをベースに作られていることはプレイし始めてすぐに伝わる。
さながらゲームマスターと会話しているかのように、主人公は自身の脳内で"会議"をしながら物語を進めていく。
生身のゲームマスターでこれほど淀みなく知識や設定を披露できる者はそういないだろう。
すべてが創作であり、誰かの手によって書かれたものであるという事実にプレイしていて少し恐ろしくなる。
膨大な文章による世界観の構築。匂いや痛みまで伝わってくるかのような表現。常軌を逸した産物である。
油彩風のクォータービューで描かれる一面灰色に濁った港町・レヴァショール。
あらゆる調度品が破壊され、割れた窓から寒風が流れ込むホテルの一室で目が覚めるところから物語は始まる。
主人公はどこから来てなんのためにホテルに泊まっていたか、どんな仕事をしていたか一切覚えていない。
自分の名前や顔すら思い出せない。ひとつひとつを周辺の状況から推理し、取り戻さなければならない。
自身の問題だけでも手いっぱいなのに、ホテルの裏手では首吊り死体が見つかりその調査を任されることになる。
死体は誰か。自殺か他殺か、他殺だとしたらなぜ殺されたのか。ひたすら謎が積み重なっていく。
本作のマップはそれほど広くはない。アナログのボードゲームでも再現可能なくらいのサイズと言えばよいか。
しかし、マップの外側に存在するであろう世界の広さを想像させるだけの情報を掘り起こすことができる。
先へ進むごとに真相から離れていく。『読むたびにページが増えていく本』のような感覚。
ある種の怪奇現象。製作陣の情熱、あるいは狂気。主人公の体験も相まって上質な混乱が形成されていく。
ただし、この遠回りさせられている感覚がゲームを進めるうえで悪いほうへ働いてしまう場合もある。
小さなステップを進めるのにも長文がつきまとうため、たっぷり2~3時間プレイしたわりに話が解決へ向かわず
先へ進んだ実感を得られないことが次回のプレイへのモチベーションを削いでしまうのだ。
おもしろいのに先へ進まない。先へ進める気力が衰退していく。膨大な文章がもたらす欠点とも言えるだろう。
数多の寄り道の先に待ち受ける事件の真相もまた、本作を『奇書』と感じさせる由縁ではないだろうか。
すべてがリンクした瞬間の鳥肌が立つ感覚を、舞い散る雪と枯草のなかでぜひ味わってもらいたい。
[オススメ度]
かなり人を選ぶ内容。どちらかといえばゲームよりも長編小説など活字を好む人にオススメしたい。
難解な政治的表現や露骨な性的表現があるので未成年にはオススメできない(というより理解できないのでは?)
Switch版やPS4/PS5版もあるが、ゲームの性質上マウス&キーボードで操作できるPC版が遊びやすいだろう。

エンディングを見終えたときの感情を正直に言えば、感動とかではなく重たい荷物を肩から降ろした感じでした。
当初は1月に掲載する予定で、プレイし始めて2時間後にレビューを書き始めたのですが、書き終えたのがなんと
4か月後だったという…1周するのにこれほど時間がかかるとはさすがに思ってなかったんですよ。
捜査する楽しみこそあったものの、操作する楽しみがないゲームを50時間続けるのは難しかったですね。
推理アドベンチャーは好きなジャンルですが、動かす楽しさがあるゲームのほうがモチベは維持しやすいです。
ちなみに自分が1周目で到達したエンディングはグッドエンドの一種だったそうな。のちに調べてわかりました。
エンディングはおおまかに6種類あるとか。計画的にプレイすれば全部見れるのかな…すごく時間かかりそう。
私事ですが、今回の「Disco Elysium」が初めてSteamで購入したゲームとなりました。
ある時期にPCでゲームをするのを意識的にやめ、ゲームが快適に動作する性能のPCを持たなくなりました。
PCでやることはPCで、ゲームをやるならゲーム機でと、生活のスイッチの切り替えを明確にしたかったので。
それがどうして今回PC版を購入したかといえば、まあ…セール価格も一因ではありました。
通常価格なら普通にPS4版のほうが安いし、あえて動作に不安のあるPC版を買おうとは思わなかったでしょう。
一番の理由は「Disco Elysium」の最低動作要件をうちのノートPCでもかろうじて満たせていたから。
動くというのなら一度は試してみようか?、噂に聞くSteamなるプラットフォームを(笑)となったわけです。
実際Steamを利用してみて「これは普及するはずだわ…」と感じました。導入も購入も想像以上にスムーズだし。
支払い方法さえ用意しておけば、あとは数回クリックするだけでインストールまであっという間。
ちょっと手間取ったのはPayPalでの支払い。支払い方法の登録ページにPayPalの項目がないんですよね。
支払い方法を登録しないまま商品をカートに追加し、購入に進むとデフォルトの支払い方法がPayPalになります。
あとはいつもどおりPayPalの手続きを進めるだけ。メチャクチャ簡単でした。
こんなに手軽だとPC版しか存在しなくて諦めていたインディーズタイトルにも手を出しそうになります。
ただ、快適に遊べるとは言えないかな…「Disco Elysium」もとんでもないロード時間を挿みつつ進めてましたし。
(HDDからSSDに換装してもなお起動に5分くらい、エリアの移動に毎回1分くらいかかってます)
PC版の利点としては、スクリーンショットの撮影から編集まで全部PC内でできるのが便利ですね(当たり前か)。
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